シリブカガシ  Lithocarpus glabra

シリブカガシ(京都府立植物園:1999.8.15)

シリブカガシ(京都府立植物園:1999.8.15)

ブナ科*(クリ亜科)マテバシイ属 【*APGⅢ:ブナ科オニガシ(Lithocarpus)属】

Lithocarpus:Litho(石の)+carpus(果実)glabra:無毛の

大阪の泉北や泉南に比較的多く点在し、また、ところどころの神社境内で群落をつくっているシリブカガシは、葉が常緑で秋にはドングリが実りますから、落葉性のコナラやアベマキなどよりもっとシラカシやアラカシに近い植物という印象を受けます。しかし、実際は雄花序や雌花序の構造の違いなどを根拠にマテバシイ属という別のグループに分類され、クリ属やシイ属とともにブナ科・クリ亜科に含まれています。シリブカガシとカシの仲間とは、シリブカガシの雄花序は枝の先端から斜上すること(コナラ属では下垂)、ドングリが10cmくらいの長い果枝につくこと、ドングリの底が少しくぼんでいること(名前の由来)、葉の裏に短毛が密生し、やや銀白色に光ることなどで区別できます。

マテバシイ属の樹木は、日本にはシリブカガシとマテバシイしか自生していませんが、世界全体ではおよそ100~300種があり、東南アジアやインドネシアの熱帯、亜熱帯の山地を中心に分布しています。いつだったか、ボルネオのキナバル山に登りましたが、標高1000m付近にあるヘッドクォーター周辺に奈良の春日山に雰囲気の似た常緑広葉樹林があり、そこの観察路で拾った直径3cmほどの大きなドングリの底は、少しくぼんでいて、シリブカガシの仲間とすぐに分かりました。また、10数年前に訪れたスマトラの山にも、実こそ落ちていませんでしたがたくさんのシリブカガシの仲間が生えていました。

シリブカガシは日本のほか中国や台湾にも生育していますが、日本での分布はおおむね関西以西の低地、とくに中国、四国、九州の比較的海岸に近い、標高 500m以下のところに限られています。したがって、本来熱帯性の植物であるマテバシイ属植物の中では最も寒いところまで進出してきたもので、本来、冬の寒さには弱い樹木といえるでしょう。